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*以下は、社団法人内外情勢調査会会報誌(2006年6月6日号)に掲載された同調査会の月例懇談会(4月19日)でのシーファー大使の講演要旨に一部編集を加え、同調査会から許可を得て転載したものです。

日米経済パートナーシップ

駐日米国大使 J・トーマス・シーファー


 米国のJ・トーマス・シーファー駐日大使は4月19日、内外情勢調査会の全国月例懇談会で「日米経済パートナーシップ」と題して講演、「自由な市場の原則」を強調して、「農産物」を含めなくては日米FTAの交渉は成り立たないとの立場を示した。(文責・編集部)

 日本が素晴らしい同盟国であることは疑いもない。世界で多くの課題に立ち向かうのに当たり、日本が友人であることに、米国人はホッとしている。

  今日は日米の長期的な経済関係について話したい。今は、日米のグローバルな同盟をより偉大なものとし、両国民の安全と繁栄を、拡張していける歴史的な時だ。

 21世紀のグローバル経済に対して、恐れることは何もない。日米両国は、教育程度の高く革新的で意欲的な労働人口を持ち、すでに世界で1位と2位の経済を構築してきた。日米両国は、特許数でも今日世界で1位と2位を占め、各国より多く研究開発に投資している。世界を圧倒するハイテクやITの革命を率先してきた。過去に将来を作ってきた日米が、現在、将来を恐れる理由は何もない。

 しかし、米国人も日本人も、グローバルな世界で自分たちの経済がどうなるのか心配している。安い労働力や、知的財産の海賊版が市民生活を脅かすのではないか。中東問題でエネルギー市場が混乱するのではないのか。技術の変化が早すぎて文化が破壊されるのではないのかと心配している。確かに問題はある。しかし、問題解決のための資源や知識もあるから、勇気を出して行動すればいい。

 ITやテクノロジーは、様々な障壁を毎日のように打ち壊しているが、「自分たちは関係がない」と無関心な人々もいる。過去に戻ろうと壁を作る人々もいる。どんな変化が起きているかを理解し、変化の一部となり、良いところを取ろうと努力している人々もいる。米国人も日本人も、この最後のグループにならなければならない。

 変化する世界の一部になることは選択肢だが、変化を止める選択肢はない。世界は変化していく。日米は、さらに経済を統合することができる。そうしなければならない。「危険すぎる」との意見もあるが、グローバルな世界ではバラバラで戦う方が危険だ。

 昨年、小泉純一郎首相は郵政の民営化に努力した。首相は正しかった。郵便局にある資金の管理は民間に任せた方が良い。民間がこれを資本として、雇用を創出し、さらなる繁栄に導くだろう。

 小泉首相は、対日直接投資を倍増させたいと述べた。ここでも首相は正しい。対米直接投資は米国の国内総生産の22%に匹敵する。日本は2%を超えるくらいだ。これはG8の中でも最低だ。小泉首相が最初にイニシアティブを発揮し、対日直接投資は倍増した。結果として日本は「失われた10年」から脱出した。これは偶然ではない。

 外国からの直接投資は雇用を創出する。最近、トヨタの名誉会長が「トヨタは昨年、米国で220万台以上を販売したが、そのうち155万台は米国で製造した」と教えてくれた。トヨタの米国への投資は、日米両国の利益になった。

 ボーイング社は率先して対日投資を行い、以前には存在しなかった製品を市場に出した。60年代半ばの飛行機727は、外国からの部品が2%に過ぎなかったが、新しい飛行機「ドリームライナー」は35%が日本で造られる。ボーイングは米国の会社から発展して、各国で経済成長を引っ張る「経済のエンジン」となった。

 グローバルな世界というと、製造が先進国から開発途上国に移るという印象を受けるが、そうではない。実際に起きているのは、生産性の向上により、過去には必要とされた仕事から開放される人が多いことだ。

 95年から02年にかけて、米国の製造業の雇用は200万減少した。同時期、日本の製造業の雇用も170万以上減少した。皆、「その雇用は中国へ行った」と答えるだろうが、同じ時期、中国の製造業では1500万の雇用が失われている。製造業の雇用が中国へ流れたことはあろうが、失われた数ほど流れているわけではない。

 政府は時々、社会や産業への影響を和らげるため雇用を守ろうとするが無駄なことだ。労働者を再教育、再訓練してこそ、違う分野で長続きする雇用を見つけられる。

 鉄道が電力やディーゼルを使い始めた時、石炭を釜にくべる仕事は失われた。過去の仕事を保護するより、将来の仕事のために訓練する方が賢い投資だ。

 企業のライフサイクルは急激に変わるから、規制環境も見合った変化をしなければならない。政府の規制は市民の健康と安全を守り、企業が誠実に行動するためにあるわけだから、競争を阻止する障壁となってはならない。

 保護主義的規制により、ちゃんとした製品が販売できないとすれば、高い値段を払わざるを得なくなる。消費者が「隠れた税金」を払っていることになる。安くて良い製品を売れない企業は成長できず、雇用を提供できない。これは誰もが損をする規制だ。

スタバを見なさい

 例を挙げる。ハートフォード生命保険は、何年にもわたり変額(確定拠出型)年金保険を販売しようとしてきたが、規制により阻まれてきた。米国の変額年金市場は00年には1370億ドルだった。日本は00年、10億ドル以下だった。同社が参入を許されてから6年、日本の変額年金市場は400億ドルに達した。同社のシェアは30%で、残りの70%は他社のものだ。年間400ドルの70%の方が、10億ドルの100%より遥かにいい。同社の参入が許されなければ、この市場はできなかった。

 官僚ではなく、市場が企業の勝ち負けを決めるのが一番だ。シアトルのスターバックス社は、日本のコンサルタントからは「日本人は持ち帰りの紙コップコーヒーなど買わない」と言われたが、自分たちの計画に自信を持って、日本に進出した。その結果、コーヒーが、新しい形で受け入れられたばかりか、今では日本に500以上の店舗を構え、1万人以上を雇っている。これも対日直接投資が、日米双方の利益になった例だ。

 米国と日本は、さらに協力できる。さらに経済を統合し、雇用を創出し、両国の繁栄につなげられる。自分の利益になるか、ならないか、はっきりしている。互いの市場から締め出すことは、誰のためにもならない。市場を統合すれば、相乗効果が生まれる。が、一方通行は許されない。日本の企業がより自由に米国に投資できるようになると同じように、米国の企業がより自由に日本に投資できるようにしなければならない。

 私がオーストラリアで大使を務めていた時、米豪は自由貿易協定を交渉した。私の故郷テキサス州の話を、オーストラリア人は注目してくれた。テキサスの人口は2100万。オーストラリアの2000万人より少し多いが、テキサスの経済はオーストラリアの2倍近い。

 それは、テキサス人がテキサス以外の米国人、2億8000万と自由に商売ができるからだ。「2000万人だけの市場ではなく、3億人にアクセスができるのだから、米国と自由貿易協定を結ぶべきだ」と私は話した。

 日米の人口を合わせると4億2700万、世界の中でどんな重みを持つことか。競争力が衰えることは考えられない。両国の経済が統合されれば、想像もつかない成長があるだろう。協力が一番だ。

 だからこそ、貿易上の問題、例えば牛肉問題のようなものを、できるだけ早く解決しなければならない。長引くほど、両国の経済関係に悪い影響を与える。

 経済的な課題はたくさんあるが、大きなチャンスでもある時代だ。アインシュタイン博士は「想像力は知識よりも大切だ」と言った。日米両国は、世界で協力するだけの知識は十分あるのだから協力をすれば何ができるのか想像力を働かせよう。

米国締め出しの思惑には

 中国の台頭に、どのように対応すべきと考えるか。日米が共同対処することが有益な場合があるか。

大使 米国は現在、中国とも良い関係を持っているが、対日関係の犠牲の上に成り立っているわけではない。日本との関係がうまくいけばいくほど、米国にとっては中国との関係もうまくいく。長期的な政策の利にもかなっている。

 日本と中国の関係が今後どうなるかは互いに不確定な要素があると思うが、日本と米国が共同戦線を張って対応していくことができればよろしいのではないだろうか。

 日中関係の在るべき姿については、日本、中国が自ら判断することだ。まだ、その判断がついていないと思っている。

 大使は触れられなかったが、日米FTA(自由貿易協定)や日米ETA(経済連携協定)に関する意見は。

 日本は先日、東アジアETAに関して発表したが、米国から反発の声が聞かれるという。米国も北米自由貿易協定(NAFTA)をしていて、米州自由貿易地域(FTAA)協定構想も推進している。東アジアの経済連携を、米国は祝福してもいいと思うが。

大使 FTAもETAも、日本の関心事であることは認識している。ただ、米国はFTAの交渉に当たっては、常に「包括性」を大事にしている。つまり「農産品も入れるべし」ということだ。農産品は含められないのであれば、交渉の取っ掛かりにならない。

 日本には人口高齢化の問題がある。日本の農家の平均年齢は65歳ぐらいだと思う。日本がこれを政治問題として受け止めるのであれば、補助金ではなく直接給付を農家に出せば自由貿易が損なわれないといった考えを取れば、米国ではプラスのサインとして受け止められる。しかし、判断するのは日本自らだ。

東アジアETAは興味深いアイデアだとは思う。米国を締め出そうとする動きがあれば愉快ではない。米国はアジア太平洋国家の一員だ。

 ゼーリック国務副長官が中国に対して「責任ある関係者(responsible stakeholder)になるべきだ」と提案している。大使は、中国の軍事力を脅威と見ているか。

 ブッシュ政権の台湾政策は、現状維持だと思う。現状維持を乱すものは、対岸に中距離ミサイルを展開している中国ではないか。

大使 副長官の発言は、国際社会から利益を受けるのであれば、大きな問題に対して、傍観者ではなく、建設的役割を果たすべきだと言っているのではないか。

 中国は自由市場を受け入れたことで、経済的繁栄がもたらされ外交が穏便になってきたと思うが、一方では軍事力強化を続けている。その意図は分からない。

 台湾に関して、ブッシュ大統領は「ひとつの中国を信じるが、その政策は平和な形で台湾と中国がやっていくようなものでなくてはならない」と言った。どちらも挑発的な行為をしてはいけない、軍事的な解決に依存してはいけないということだ。中国はそれを基本的に理解していると思う

伝統的紛争にもテロにも

 米軍再編の交渉に当たって、何を最も重視しているのか。日本政府にいかなる要請があるのか。

大使 米軍の能力を減らさずに、日本での存在感を減らすことができればと思っている。能力をアップさせる効果を持つような形でまとまることを願っている。

 再編問題は米国にとって全体的枠組みの中のひとつの要素ということだ。米国の兵力は世界中に配備されているが、この60年間で世界が変わってきた。

 例えば、ドイツ駐留米軍は、共産軍のドイツ侵攻に対する守りだが、そのニーズはかなり軽減しているから、再編を強いられる。アジアでも同様だ。  確実に、21世紀の有事に備えていきたい。21世紀の新たな有事とは--テロが大きい。

 テロの登場で、方程式が様変わりした。どこでテロが起きても対応できる能力をつけなくてはならない。

 伝統的な国家間の紛争も残っている。だから伝統的な国と国の間の紛争にも確実に備え、新たな形態のテロにも打ち勝てるよう対応力をつけなくてはならない。

 日本も米国も同盟関係から実を得ている感触を持たなくてはいけない。だから、小泉首相が横須賀に原子力空母が入ってくることは日本の利にかなうと述べたことは重要だ。

 これからは、共同施設をもっと持ち、相互運用性を確保していきたい。米国は様々な紛争に関与することかもしれないが、日本がそれに全て関与することではない。

 しかし互いを知り合い、もっと共同活動をすればするほど、日本のみならず、地域全体の平和を守る確率が高まる。それを米国としては目指している。

 BSE(狂牛病)問題は、日米間のパーセプション・ギャップ(認識の隔たり)ではないのか。米国内では保護主義が強まっているようだが、どのように抑えるのか。

大使 世界中で保護主義の気運が高まっているのは非常に残念だ。世界の繁栄は、自由貿易を行ってきたからある。問題は、自由貿易の結果、誰かが失業した時、故郷の町では大きな視野を持つことができないことだ。

 私たちがなすべきは、自由貿易で経済は全体的に良くなり、大きくなると言い続けることだ。

 例えば、NAFTAをめぐっては、米国にもメキシコ、カナダにも反対論者がたくさんいた。しかしNAFTAができた結果、3カ国の経済はかつてないほど拡大した。そういった事実を見ていかなければいけない。

 BSEに関してはパーセプション・ギャップが確かにあると思う。米国人は安全だと信じているが、日本人は「そんなことは信じられない」と。

 どうしたら、それを取り除けるか。まず禁輸を解いてほしい。私たちは合理的根拠により、米国の製品が健全なことを示したい。しかし輸入が禁止されていては、いくら「安全だ」と言っても、選択肢にもならない。