
2005年11月30日
(草稿)
日本外国特派員協会にお招きいただいたことを心よりうれしく思います。この場から、これまで数多くの著名な方々が日本に向けた講演をされています。そして今回、こうした機会を私に与えていただいたことを光栄に思います。
アメリカ革命のさなかにアビゲ―ル・アダムズは、若き息子のジョン・クインシー・アダムズにあてた手紙の中で、「試練の時こそ魂は試される」と書いています。今日、私たちは決して平穏とはいえない時代に生きています。国際秩序は変化し、国際経済も変化しています。そして、国際的な行動規範はテロ攻撃の標的にされています。試練の日々が続く時代だとも言えます。
今から60年前、日米両国民は別の試練に直面しました。日米両国間の長くつらい戦争が終わりを迎えたのです。一方が戦勝国となり、他方は敗戦国となって破壊されたのです。米国には戦後の報復政策を提唱する声もあり、日本では戦後は米国との間に距離を置く政策を取るべきだという声がありました。
幸い、太平洋をはさんだ日米両国の、より賢明な人々には、日米関係を永遠に変えてしまう決断をする勇気と先見の明がありました。将来において過去の過ちを避けるには、お互いに相手を敵視し続けることはできないということを、彼らは理解していたのです。疑心を信頼に置き換え、憎しみを希望へと変える困難な決断をしたのです。これまで60年間にわたり、私たちは戦争の傷を癒やす努力をしてきました。その過程で、相互理解があればお互いの利益を認め合う機会が生まれることを悟るようになったのです。これ以上の好結果を期待するのは私にとっては難しいことです。
米国は日本に、民主主義と寛容という価値観を受け入れるよう求めました。言論の自由、報道・出版の自由、そして信仰の自由です。日本国民は熱意をもってこうした価値観を採り入れ、そして、米国独自の価値観ではない、こうした普遍的な価値観が、日本を繁栄と自由の国へと変容させたのです。私たちは日本の良心に訴え、日本もその呼び掛けに応えてくれました。日本は、他の国々にとって、自由で開かれた社会が居住者のために何ができるのかを示す素晴らしい手本となりました。日米両国は、その後、市場での競争相手になりましたが、お互いを相手として武器を手に取ることは2度とありませんでした。それどころか、現在では、最も緊密な同盟国となっています。そして、両国が将来において再び戦火を交えるということは考えられません。私たちは、過去が未来を示す前触れである必要はないということを証明してきました。歴史は克服できます。強烈な敵同士が親友になれます。
60年は長い歳月です。アジアの伝統では、60年は人生の周期を表わします。日米関係も、その周期がひと回りし、次の60年がどんなものになるのかということについて、また、これまでの60年間と同じように成功するためには何を協力してなすべきかということについて、じっくりと考えてみる必要があります。
安全保障面では、日米両国は、「国民国家」の誕生以降、国際関係の特徴となってきた伝統的な「国家対国家」の脅威に引き続き直面するでしょう。これまで私たちの敵を抑止してきたものと同様の確実性と能力を日米同盟関係において維持する必要性が依然としてあります。しかし、第2次世界大戦の焼け跡から生まれた世界秩序は、今ではもう過去のものとなっています。ソ連は崩壊しました。冷戦が終わり、ヨーロッパではほぼ安全が確保されています。しかし、平和なヨーロッパが平和な世界の保証になるとは限りません。
今までの国際秩序は再定義されつつあります。中国とインドは大国のように振る舞っています。ロシアは、かつて自らを超大国にさせていた帝国をもはや支配していないという現実に順応しています。
こうした時代は、各国が新しい国際秩序の中で地位を確立しようとするため、危険でもあります。超えてはならない一線が明確に分からない時代には、各国が地位を確立しようとするなか、外交関係には時として不確実性と不安が伴います。しかし今回はその限りではありません。変化に伴う固有の危険は対話と話し合いにより回避できます。人々に私たちが何を成し遂げようとしているのかを知らせるよう注意しなければなりません。さらに、他の人々には、意図を明らかにすることと、統治を透明にすることを促さなければなりません。各国がそうすればするほど、時として対立に至りかねない不要な誤解を回避できる可能性が高まります。
では、米国は世界で何を成し遂げようとしているのでしょうか。ごく簡単に言えば、私たちは自由を信奉しています。政府の自由、市場の自由です。ブッシュ大統領は、民主主義が持つ変革をもたらす力を信頼していると、たびたび表明しています。人々が自由に自分たちの政府を選び、批判し、また政権交代を起こすとき、不思議なことが起こります。政府が人々をコントロールするのでなく、人々が政府をコントロールし始めるのです。そしてその後、必ず平和が訪れるようです。民主的に選ばれた政府を恐れる必要はありません。対立をもたらすのは専制政治や独裁政治であって民主主義ではないことは、歴史が証明しています。
米国はただ単に自由を支持するだけでは十分でないことを理解しています。各国の最善の国民性が民主主義制度を通して開花するように、できる時は、指導力と支援を提供しなければなりません。米国や日本のような成熟した民主国家にとって当然の価値観は世界の多くの国ではまだ争点となっています。アジア、アフリカ、中東、そして中南米の一部では、独裁政府か民主政府か、自由経済か計画経済か、といった難しい選択は最終的には、まだなされていません。法の支配はまだ確立されていません。米国はすべての論争の最終調停者にはなれませんが、世界中の自由を支持する人々を支援することはできます。米国と日本は過去60年間において多くを成し遂げましたが、仕事はまだ終わっていません。他国の民主主義制度と自由経済が究極的に成功するには、まだまだ長期間私たちの支援が必要とされるでしょう。
次の60年間の両国の関係の始まりにあたり、日米同盟がいかに両国の安寧に貢献してきたかを覚えておくことが重要です。過去60年間、日本は平和であり、世界は大戦を経験することもありませんでした。こうした成功は在日米軍のプレゼンスによるところを大としています。日本を攻撃する可能性のある国は、日本に対する脅威は米国に対する直接の脅威と米国は見なす、と警告されたのです。
しかし、在日米軍は時として、日本の負担であると見られます。それは理解できます。外国軍の駐留は世界のどこでも、誰にとっても第1希望ではありません。しかし米軍の駐留という現実は、日本が世界第2の経済大国になるために必要とした機会をもたらしました。同時に、在日米軍は地域全体の平和と安定に貢献しました。長年にわたって培われた同盟関係は、日米両国の国益に十分寄与しました。私たちは、日米同盟が両国と地域全体の平和と繁栄に貢献してきたことを、引き続き認識し称賛すべきです。
米軍の日本駐留に異議を唱える方々に、次の2つの単純な質問をしたいと思います。もし在日米軍がいなければ、日本の方々は、より安全と感じるでしょうか。もし米軍が日本にいなければ、この地域の危険度は少なくなるでしょうか。この2つの質問に対し、大多数の日本の方々は「ノー」と答えると思います。結局のところ、それが日米同盟の真義なのです。日米同盟は両者に利益をもたらす関係です。
私たちは、これまでと同様に将来においても平和が確保されるよう、現在の同盟関係を21世紀型のものに変革すべく、過去数カ月間、話し合いを続けてきました。米軍の移転については、報道がたくさんなされました。協議に臨むにあたり日米両国は、現在の能力を維持しつつ在日米軍を削減したいと述べましたが、私たちは、それを達成し、かつ、それを上回る成果も挙げたと思います。在沖海兵隊の数をほぼ40%減らすことに合意しただけでなく、代替施設が建設できれば普天間を返還するとも申しました。また、数十年先を見据えて、日米関係を深め、強化する他の措置も講じています。日本と米国は共同統合運用調整所を横田空軍基地に初めて設置します。この施設は、両国のミサイル防衛能力を高めるものです。日本の空自航空総隊司令部と米国の第5空軍司令部を横田に共同設置することにも合意しています。これも、日米両国の今後の防空・ミサイル防衛作戦において重要な役割を果たすものです。また、キャンプ座間での米国陸軍と陸上自衛隊の共同指揮作戦も増やします。これにより、津波や地震時の救済活動など日本国内外における人道的支援を両国が協力して行う能力を高めることができます。
さらに、より多くの有事に備える共同作戦計画を作成し、情報の共有を拡大し、共同訓練を増やすことにも合意しました。米国は、グアム、ハワイ、アラスカ、米国本土の米軍基地を日本の自衛隊の訓練のために開放します。この合意により、在日米軍基地が米国の施設から、共通の利益のために日米両国が協力し合う力を高める共同施設へと、真に変革します。私たちは、日本とのさらなる協力を望んでいます。日米両国が共に行動すれば、アジアおよび世界のための強力な力となり得るからです。日本と米国が相互依存をさらに深め、相互運用を進め、能力が高まれば、両国は不安定な世界の挑戦課題に対処する準備態勢を向上できます。
従来型の脅威がまだ存在し、その脅威を抑止する従来の手段が日米同盟の要であり続ける一方、非従来型の脅威が21世紀における同盟を形づくるということを、認識しなければなりません。9月11日の同時多発テロは、日常生活を送る市民も危険にさらされているということを示しました。テロは現代の破壊のもとです。テロはあらゆる社会の構造を脅かすからです。もし人々が自分の街を歩いたり、自由に物を考えたり、自由に信仰したりできないのなら、現在の文明は存在しなくなります。20世紀のどのイデオロギーとも同じくらい、テロリストは私たちの自由を脅かします。テロリストは社会の根幹を脅かすからです。もし無実の人々を残忍に殺すような人々に社会の意思決定プロセスを任せてしまえば、すべてがうまくいかなくなります。もしテロリストに勝利させてしまうなら、私たちの日常生活における希望は、憎しみと置き換えられるでしょう。
非従来型の脅威という安全保障上の課題に取り組むため、私たちは従来とは異なった観点から考える必要があります。それは市民の自由を抑圧するということではありません。私たちは 自由を推進しようとしているのであって、阻止しようとしているのではありません。過去と異なる安全保障戦略をつくり上げる必要があるということです。
制服も着ず旗も掲げていない敵に対する防御の最前線にいるのは、巡回中の警官であり地下鉄に乗り合わせた市民の皆さんであるということを理解する必要があります。違法活動を阻止し、大量破壊兵器の拡散を防止し、国境を警備し、同盟国と情報を交換することが、これまでに開発した兵器システムによる安全保障と同じくらいの安全を国民にもたらすかもしれないことを理解する必要があります。私たちの大義の正当性に対する信頼を失ってはなりません。テロリストは被害者ではないのです。いかなる大義も、罪のない人々を殺したりすることを正当化できません。テロリストが危害を加える前に、ただちに彼らの動きを阻止しなければなりません。
私たちは21世紀の従来型の脅威と非従来型の脅威に直面していますが、現代の防衛コストは低いだろうと思い違いをしてはいけません。日本の地域社会の背負っている負担に関する話を日本でよく耳にします。そうした意見は理解しています。同時に、日本の皆さんにも、両国が同盟関係を結んで以来、米国の国民が背負ってきた重い負担も是非理解していただきたいと思います。米国の納税者は今年、国内総生産の3.7%以上を国防に支出することになります。日本の防衛予算は1%未満です。実質ドルベースにすると、米国は日本の10倍を国防に向けていることになります。テロの脅威が広がり、従来型の抑止の必要性が存続するなか、米国の過去4年間の防衛費はほぼ50%上昇しました。一方、日本の過去4年間の防衛支出額は、実質ドルベースで、実際には減少したのです。私たちは強化された米国の抑止能力が日本の安全保障を向上させるものと信じています。私がこの点を指摘しましたのは、日本だけが米国の同盟国の中で相互安全保障の重い負担を負っていると思っている人々に対して申しあげたかったからです。両国の政府は深刻な財政難に直面していますが、国民の安全と治安より大事なものはないということを理解する必要があります。生まれつつある新しい世界の課題により、両国政府は希望する以上の金額を防衛に費やす必要があります。
安全保障は自由というアジェンダのほんの一部にすぎません。市場の自由は日米両国の経済成長にとって不可欠です。米国は、世界の多くの国を依然として苦しめている社会の害悪の多くは、貿易と世界市場へのアクセスにより取り除くことが可能であると信じています。日米両国はグローバル化した世界に繁栄をもたらす大きな機会を認識する必要があります。日米は共に技術が発展し教育水準も高く資産も豊かな国家なのですから、変化を恐れることはありません。恐れるどころか、熱心に変化をリードしていくべきなのです。孤立主義や保護主義のわなに陥ってはなりません。相互に市場開放することは消費者により安い製品を、企業には機会の拡大を、つまり、すべての人に、より多い雇用機会を提供することになります。世界第1と第2の経済が結び付けば世界経済の方向に大きな影響を及ぼすことが可能です。だからこそ私たちは、WTOドーハラウンドの行き詰まりを打破する画期的な方法を打ち出す作業に加わるよう日本に要請してきたのです。両国とも農業分野に対して敏感ですが、その難問を解決することにより双方に利益をもたらせる広範囲の改革の扉を開けることができます。日本と米国は共に貿易国です。拡大する世界経済の成果を私たちが享受することを保護主義と官僚主義の勢力が阻止することを許してはなりません。
ブッシュ大統領は3回目の訪日を、2週間前に終えました。大統領は小泉首相と美しい京都迎賓館において会談を行いました。長い建設的な話し合いが持たれ、素晴らしい日本料理を楽しみました。周知のとおり、2人のリーダーは、とても親密で、お互いに、会うのを心待ちするようになっています。
大統領は2人の関係の奇妙なめぐり合わせの意味を理解しており、京都での講演で、それに言及しました。2人の父親は先の戦争で敵味方となり戦いました。しかし、息子達は平和を追求するなかで最も親密な同士、親友となりました。
2人の関係は共通の信念の上に築かれています。彼らは民主主義は今後も広めていくべきであると信じています。そして自由は依然として機能し、緊密で強固な日米同盟の継続が安全で安定したアジアの鍵であると、共に、信じています。
マスコミの中には、論争となる問題がほとんどなかったので、会談においてほとんど目新しいニュースはなかったと言う人もいました。私は、同意しかねます。問題がなかったということが、本当のニュースなのです。私たちは、とても難しくかつ重大な同盟の将来に関わるいくつかの交渉を終えたばかりでした。私たちはいつも同じ地点からスタートしたわけではありません。しかし、お互いの意見を聞き、友人は意見が異なってもよいということを認識しました。そして、友人やパートナーのように、意見の違いを解決しました。私たちはどちらも、小さな意見の違いが、同盟についての大きな構想を妨げることを望みませんでした。
米国と日本は共通の価値観を共有しているが故に、素晴らしい関係にあります。言葉や文化はとても異なります。民主主義は違う形で機能しています。両国の過去において、平和なことばかりがあったわけではありません。しかし、自由、民主主義そして寛容という同じ基本的な社会の構成要素を信じています。両国がうまくやっていけるのは、大変ではあるが難しい局面において、どうしても勝利を得なければならない時に、国民が正しい決定をすると信じているからです。
希望、再生そして成果に満ちた素晴らしい60年でした。米国はこの偉大な2つの民主主義国の同盟関係を続け強化する用意があります。


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