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司法制度改革審議会に対する米国政府の意見表明

(2000年6月9日)

I. はじめに

米国政府は、司法制度改革審議会に対しここに謹んで以下の意見を提出いたします。米国は、日本経済を再活性化し司法制度の基盤を整備するため日本が努力する中で、貴審議会の職務は極めて重要なものであると確信します。それは、日本を国際ビジネス・金融センターとして発展させていく上で不可欠なものだからです。

米国は、日本経済の速やかな規制緩和を引き続き支持、提唱すると共に、日本がこれまでに着手した規制緩和措置が、より競争的で活力ある経済に結びつくことを期待しています。日本経済の規制緩和が進展するにつれ、日本のビジネス社会は、自立の原則に則り、政府規制当局者への依存を弱め、より多くの決断とより多くの問題の解決を彼ら自身で行っていくことになります。その際、日本のビジネス社会が紛争解決のためにどの程度司法制度を活用することができるかは一層重要な課題となります。利便性が高く、迅速かつ効率的に機能する司法制度を確立することは、過去数年間に日本が行った規制緩和の努力を成功させるためにも極めて重要です。

世界の各国においても日本においても、司法環境というものは、投資、資本、技術を自国経済に誘致するための鍵となります。国際ビジネス社会は、アクセスし易く、充分かつ包括的な法務サービスを提供する司法制度と信頼のおける紛争処理メカニズムを兼ね備えた市場に資本や技術を投下します。また、国際ビジネス社会は、予見可能で、信頼がおけ、そして公正な(つまり、恣意的でない)司法決定をもたらす、透明で理解し易い司法手続を望んでいます。そのような手続は、潜在的リスクを軽減し、取引コストを下げ、利益に対する魅力を高めることを通じて、企業がある特定の市場に資源を投下しようとする可能性を高めます。望まれる司法環境における第三の重要な特性は、司法決定が効率的かつタイムリーに行われることです。瞬時にしてビジネスが行われる近代の電子世界や急速に変化する市場においては、時間のかかる司法・規制手続は、経済的機会を利益の少ないものにし、更には全てのビジネスチャンスさえ失わせてしまいかねません。

国際取引き、国際投資に適した司法環境の整備と規制緩和の支持という上記の観点から、米国は、以下の8つの分野に関して意見を表明致します。

(1) 国際法務サービスに向けた環境整備

(2) 司法インフラ

(3) 訴訟手続

(4) 仲裁

(5) 法的救済制度

(6) 司法制度の透明性

(7) 行政活動の司法による検査

(8) 国際民間訴訟手続との一体化

米国は、貴審議会が取り扱う刑事事件関連問題については、この意見書において触れていません。

 

II. 国際法務サービスに向けた環境整備

日本が国際ビジネス・金融センターとして発展していくためには、国際的法務及びその他の専門サービスの提供において改善を図ることが重要です。そのためには、日本および外国企業がロンドン、香港、ニューヨークやその他の世界の主要金融センターで享受できる国際的法務サービスと同じものを日本において受けることを妨げている課題を現行の日本の司法制度の中で明らかにすることが重要です。過去3年間にわたり、米国は、「規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアチブ」のもと、日本政府に対し、国際的法務サービス市場の自由化をその要望の重要な一部として取り上げてきました。

貴審議会もご承知のとおり、1987年以来、日本は、外国人弁護士が「外国人弁護士による法律事務の取り扱いに関する特別措置法(法第66号 1986年改正)」の規定に基づき外国法事務弁護士として、日本で事務所を設立し、原資格国法に関する問題に対し助言を与えることを認めてきました。1987年以降、外国政府と日本国内の外国人司法界からの一貫した要請に応えて、日本は、外国人弁護士に対し課されていた幾つかの規制を緩和しました。しかし、これらの改善は限られたものであり、日本の国際司法社会は依然としてあまりにその規模が小さく、日本のビジネス社会が必要とする国際法務サービスを提供できずにいます。日本で国際法務に携わる日本人弁護士と外国人弁護士は、両者合わせても600人にすぎません。この数値は、ニューヨーク、ロンドン、その他の国際センターで同様の業務に携わる人数に比べあまりに少なく、需要に対して全く不十分であると言わざるを得ません。

国際法務の専門家が不足している最大の理由は、現在に到るまで最も大きな障害となり続けている外国弁護士と日本弁護士との間のパートナーシップの形成を禁止する現行の司法制度が、外国人弁護士にとっての業務環境を不利なものにしていることです。以下の二つの障害もこのような環境の一部を形成しています。第一に、いわゆる「第三国法」に関する助言を行う際に、外国人弁護士が不平等な取り扱いを受けていることであり、第二には、外国人弁護士が日本で得た経験を職務経験要件として算入する際に受ける不当な扱いです。米国は、日本による早急な対処を必要とするこれら三つの課題に対して、貴審議会が注意を傾注し、建設的な勧告を行うものと確信します。

1. 外国弁護士、日本弁護士及びその他の法律専門職間におけるパートナーシップその他の関係の形成の許可

日本の企業にしても外国企業しても、複雑かつ国際的な法的助言を常に必要としています。資本移動が加速化し、ビジネス・アレンジメントが複雑化するにつれ、国際法律専門家の存在は日本経済の復活と成長にとって一層重要なものとなります。日本及び外国企業は、日本、米国及びその他の国の法律について包括的かつ完全な助言ができる能力をもち、信頼のおける弁護士と親密な関係を築くことが必要となります。外国弁護士と日本弁護士が一つの事務所の中で共に働くことで、このようなニーズを効率的に満たし、グローバル経済におけるビジネス社会が必要とする集約された法務サービスを提供することができます。

しかし、いわゆる外弁法は、外国法事務弁護士と日本弁護士がパートナーシップを形成すること、また外国人弁護士が日本弁護士を雇用することを未だに禁止しています(第49条2項)。1995年には、外弁法が改正され、外国法事務弁護士と日本弁護士による「特定共同事業」という世界においてはもちろん日本にとっても例を見ない事業形態が創設されました(第49条)。1998年には、当該事業が取り扱うことのできる業務範囲が多少拡大されました。しかし、当該事業の独特さのため、外国の依頼人は言うに及ばず、日本人の依頼人あるいは日本の弁護士でさえ、当該事業を十分に理解していません。少数の外国法律事務所がこの事業形態を使用してはいるものの、彼らは、当該事業のもとでは事業メンバーの職務範囲が人工的に分離され、依頼人が効率よく包括的な法的助言を受けられないというリスクにさらされていると述べています。

以上明らかなのように、特定共同事業制度は、外国法事務弁護士と日本弁護士との完全なパートナーシップという提携形態を適切に代替するものでないばかりか、日本に必須の法務サービスの自由化を妨げる不自然な構造物となってしまっています。司法問題全般に関わるこのような障壁は、日本国法に精通する弁護士と米国法に精通する弁護士が相互に協力、支援関係を構築することを人為的に妨げ、ビジネス社会に不利益を与えています。当該事業制度の部分的な改善では、本質的な欠陥に対処することはできません。日本において、同制度が唯一の提携手段であり続け、また、多国籍企業が包括的な法的助言を享受することが出来ない限り、日本の多国籍企業は日本国外に法的助言を求め、日本弁護士ではなく、企業内部の法務担当職員へ法的助言の求めることになります。このことは、日本人弁護士が国際問題に関する経験を積む機会を妨げ、日本が適切な国際法律専門家を育成することを阻み、日本における司法制度の空洞化の原因となります。日本企業が彼らの法律業務の場として日本を避けるようになることは、日本の利益にはなりません。

外国法事務弁護士と日本弁護士とのパートナーシップの形成を認めることは、両者の倫理的義務を脅かすものでも侵害するものでもありません。米国の全州で採用されている司法倫理の基本原則の一つは、ある法的問題について資格と能力をもつ弁護士のみが、その案件について依頼人に対して助言を与えることが出来るということです。米国の弁護士は、日本国法の専門家でないからこそ、日本人のパートナーを必要とするのであり、同様に、日本の弁護士は、米国法の専門家でないために、米国のパートナーを必要とするのです。米国や他の国際金融センターにおいて、法的業務を行う際にパートナーシップが容認されているのは、法律事務所が、取引に関するすべての法律問題について適切かつ包括的な助言を与えられることを確保するためです。パートナーシップは、各国がそれぞれの国の弁護士に正当に課している司法制度における倫理基準を強化するものです。さらに、外国法事務弁護士と日本弁護士によるパートナーシップは、専門家間の直接的な協力関係を育み、国際司法業務に関心を持つ若い日本弁護士の育成、養成を促す最良の手段となります。

国際法務サービスに必要な一定の質を確保するためには、依頼人に最も効率的かつ効果的にサービスを提供することを可能とする最良の提携形態を ― それがパートナーシップ、雇用、或いはその他のものであろうと− 外国弁護士と日本弁護士自身が選択することを認めることが極めて重要であると米国は考えます。従って、米国は、貴審議会が、外国法事務弁護士、日本弁護士、そして、弁理士、税理士、司法書士、行政書士を含むその他の法律専門職間のパートナーシップの形成、雇用、その他の費用分担関係の形成に関する制限を撤廃し、日本の法律専門職間における完全な提携の自由を勧告するよう強く要望します。

2. 外国法事務弁護士と日本弁護士に対する同等の取扱

国法事務弁護士と日本弁護士を、それぞれの専門知識に基づきそれぞれの司法権の範囲内で資格を与えられた法務専門職として同等に取扱うという法務環境作りは、質の高い法務サービスが国際取引きに対して提供されることを確保するための最善の方法です。残念ながら、日本の現行制度の下では、彼らはそのような同等の取扱を受けていません。二つの特徴的な例が挙げられます。第一に、日本弁護士は外国法事務弁護士を雇用することが認められる一方、外国法事務弁護士は日本弁護士を雇用することができません。第二に、いわゆる「第三国法」(すなわち、外国弁護士の原資格国法以外の他の国の法律)に関する助言の提供に関して外国法事務弁護士と日本弁護士の取扱いは同等ではありません。第三国法に関する助言について、外国法事務弁護士は、日本弁護士あるいは当該特定国法に関する業務を認められた弁護士からの書面による具体的助言を受けた場合にのみ、これを行うことが出来るとされています。しかし、第三国法に関する助言に関して、日本弁護士は外国法事務弁護士との比較においてより適格あるいはより適当な立場にあるわけではないにもかかわらず、日本弁護士に対しては上記のような制限は課せられていません。外国法事務弁護士に対するこのような制限の根拠が、依頼人が適切な助言を受けることを担保することであるとすれば、同じ制限が日本弁護士にも適切に課せられる必要があります。外国法事務弁護士に対するそのような規制の目的が上記のものではないのであれば、米国は、そのような規制の撤廃は正当なものであると考えます。米国は、貴審議会が、外国法事務弁護士には適用されるが日本弁護士にはされないという、このような差別的な規制の撤廃を勧告されることを強く勧奨します。

3. 外国弁護士に対する職務経験要件の緩和

外国法事務弁護士の資格取得要件も日本での職務経験をもつ外国弁護士を差別するものとなっています。外国法事務弁護士として登録されるためには、外国弁護士は原資格国法に関する職務経験を三年以上有することが必要とされています。しかし、現行規則の下では、三年の職務経験要件に対して、日本での経験は一年のみの算入が許される一方、他のいかなる国における経験についても丸三年の算入が認められています。この規則の意味するところは、外国弁護士が日本において得た職務経験は、他のいかなる国において得た同等の職務経験との比較において、価値の低いものとして取扱うというものです。日本において得た法務経験に対するこのような不当な取扱には如何なる合理的正当性も見い出すことは出来ず、単に、日本について本当に興味を持ち、日本についての知識もある外国弁護士が外国法事務弁護士の資格を取得しようとする意欲を殺ぐ効果をもつものです。(事実、日本が職務経験要件を五年から三年に緩和する以前においては、日本における職務経験は二年まで算入することが認められていました。)

米国は、貴審議会が、外国法事務弁護士としての登録に必要な職務経験に関して、日本における原資格国法の職務経験は、現行の一年のみではなく、その全てを算入することを認めることを勧告の中に盛り込まれることを提案します。

 

III.法務インフラ

企業を取り巻く環境がダイナミックかつ急速に変化する今日、健全な法務インフラは不可欠なものです。ビジネス社会の一員が、紛争解決や法務サービスに対する彼らのニーズが適宜に満たされると確信するためには、彼らが充分な数の高度に訓練された法務従事者にアクセスできることが必要です。同様に、便利で効率的な裁判制度が存在していることも必要です。ビジネス社会にとって、必要とする法務サービスを得ることができ、紛争を可能な限り迅速かつ効果的に解決できる裁判制度にアクセスすることができるようにするためには、日本の法務インフラには大幅な改善が必要であることは広く認識されています。

1. 法曹人口の増加

現在、日本の総人口に対する法曹人口の割合は世界の先進国の中で最も低く、日本で活動する国内及び外国企業双方の法務サービスに対するニーズを賄うための法務専門職の数が不足しています。国際ビジネス・コミュニティーは、日本における投資や事業を効率的かつ効果的に行うために必要な法律的な助言や説明を得るに際して、弁護士数の不足が重大な障害となっていると感じています。米国は、貴審議会がこの問題に関して、司法試験合格者数の増加、米国型ロースクール制度の導入、準法律専門職の業務範囲の拡大等を含む様々な選択肢を検討中であることを理解しています。米国は、貴審議会が、日本における法曹人口を劇的に増加させるためのあらゆる可能な方策を積極的に検討されることを強く勧奨します。一般的な原則として、米国は、法曹人口は規制当局者や専門機関によって恣意的に決定されるべきものではなく、法務サービスに対する市場の需要にしたがって決められるべきものだと考えます。米国は、貴審議会が勧告の中でこの原則を採用されることを強く要請します。しかし同時に、米国は、自由民主党の司法制度調査会が平成12年5月18日に発表した報告書の中で目標としているような、弁護士数を具体的かつ劇的に増加させるための方策を、貴審議会が出発点として勧告されることを強く要望します。

2.必要な司法資源の確保

裁判所による迅速かつ効果的な紛争解決(同様に、倒産及び他の方法を通じた企業再構築の迅速な完了)に対するビジネス社会のアクセスを確保するためには、裁判所に対して適切な人員を配備することが必要です。弁護士の場合と同様、日本の総人口に対する裁判官の比率は、先進国中もっとも低いものとなっています。米国は、貴審議会が、基本的に重要な課題として、いかにして裁判官の数を増加させるかと共に、裁判官の任命の方法を検討中であることを理解しています。

米国の経験に照らして貴審議会の検討対象として推奨できる一つの方策は、裁判所によるmagistrates及びspecial mastersの使用です。米国の法律においては、裁判官が一定期間、一定の司法機能を遂行させるために magistrates を任命することが認められています。Title 28 United States Code, Chapter 43, Section 631 et seq. をご参照ください。地方裁判所の指示により、magistratesは連邦刑法(Federal Criminal Code)に定められる「小さな犯罪 (misdemeanors/軽罪)」について令状を発し、事実審理を行う権限が与えられ、証拠審理を含む民事事件における多くの公判前申立てを聴取し、公判前の事柄を取扱います。更に、訴訟当事者の同意に基づき、magistratesが審理を完全に監督し、法的決定を下すことを含め、民事事件に関する全ての手続きを行うことも可能です。このmagistrate制度は、裁判官の仕事量を軽減し、訴訟プロセスを促進する意味で極めて効果的に機能してきました。1999年においては、米国のmagistratesは65万件近くの事件を扱い、当事者の同意に基づき11,000件以上の民事事件を処理しました。貴審議会が米国型のmagistrate制度を勧告される際には、必ずしも全く新しい司法職員の職種を創設する必要はなく、単に現在の簡易裁判所職員の機能、権限及び資格基準を拡大することで代替できます。

更に米国の法律は、裁判所が特別に複雑な事件について、ある特定の機能を遂行させるため「special masters」を任命することを認めています。この制度独特の方法として、special mastersに対する報酬は訴訟当事者により支払われます。裁判所は、special mastersに与えられる権限、行うべき行為を具体的に示し、special mastersは彼らが行った事実認定、法的決定等を裁判所に対して報告します。伝統的にspecial mastersは会計に関すること、損害額の計算、時には文書等の提出要求手続きを要する事件に用いられてきましたが、近年においては、科学的、技術的知識あるいは企業経営の経験を必要とするより多くの複雑な事件において用いられています。

米国は、貴審議会が日本における裁判官不足の問題を精力的に検討し、この分野に関して具体的かつ広範にわたる勧告を発せられることを希望します。米国における上述のmagistrates 及びspecial masters制度は、貴審議会がこの重要な問題を検討する際に役立つものと考えます。

 

IV. 訴訟手続き

裁判所に対する提訴の規則、また、それに続く訴訟過程の手続きは、司法手続きの効率性、迅速性を決定するうえで重要な役割を果たします。米国は、日本の現行の民事訴訟過程は、その多くの分野で、効率性及び迅速性を改善するという観点からの見直しが必要であると考えます。貴審議会において、これらの課題が直接的かつ完全に検討されることを要望いたします。

1. 裁判所提訴から判決までの所用時間の短縮

法的論争の速やかな解決は、訴訟費用の軽減、明確性や確実性の向上をもたらします。それらのものは皆、企業の立場からも一般的社会的関係においても利益となるものです。事実、日本の民事訴訟法第2条は、「裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め」ることを要求しています。このような法的明記にもかかわらず、「複雑な商業問題、高度な技術的、科学的問題を含む訴訟は、日本においては甚だしく長期間を要し、それは少なくとも部分的には日本の裁判の非統合的性格によるものである」と広く認識されています。このことは日本において弁護士及び判事がその数において不足していることの結果であり、本意見書「セクション III.」において指摘した法的インフラに関する課題を検討することは民事訴訟に要する期間に対して極めて大きな影響を持つものです。

また、民事事件に関する裁判の運営方法も訴訟の迅速性に大きな影響を与えます。米国においては、事件の提訴から実際に裁判に持ち込まれた案件に対する最終処分までに要する期間は平均的には概ね19ヶ月ですが、一部の地域ではわずか9ヶ月で行われています。この違いは、裁判所による厳正かつ積極的な事件処理によってそのほとんどが説明できます。米国は貴審議会に対して、日本における民事訴訟過程の迅速化に向けて全ての選択肢を検討するよう強く要望します。

2. 証拠収集メカニズムの改善

産業界における賠償請求やそれに対する弁明について効果的な方法を提供するという意味において、民事訴訟制度が国際ビジネス社会のニーズに対し効果的に対応できるものであるためには、そのような制度が提訴や弁明に関連する証拠を収集するための適切なメカニズムを事件当事者に対して提供できるものでなければなりません。証拠収集に対する日本の伝統的な手法は極めて制約の多いものです。1996年の民事訴訟法の改正により、当事者に与えられる証拠書類の収集能力は大幅に改善されましたが、この分野においては更なる改善が必要であると考えます。

a. 書面照会 ―― 1996年改正民事訴訟法第163条に、当事者が相手方に対し、「主張又は立証を準備するために必要な」事項について、書面で回答するよう照会することを可能にする条項が盛り込まれたことにより、当事者の手にある関連証拠の検証はより容易に成ったかもしれません。しかし、同法は、第163条に基づく照会に対して、相手方が完全かつ公正に応じなかった場合に関する制裁条項を含んでいないように思われ、そのためにこの新しい書面照会規則の効力を制限する可能性があります。米国は、この新しい条項を更に効果的に出来るか否かについて、貴審議会が検討されることを推奨します。

b. 文書請求 ――1996年改正民事訴訟法第220条により、民事訴訟の目的に対して文書の所持者がそれらの文書を提出する義務が拡大されました。しかし、同条4項ハにより、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」は、提出義務から除外されています。この除外規定は潜在的に極めて広範に適用される可能性があり、訴訟の解決のために重要である多くの文書を除外する目的で使用される恐れがあります。事実、銀行の内部書類の提出を命じた東京高等裁判所の判決を覆した、「前田対富士銀行」訴訟に対する最高裁判所判決(1999年12月12日)は、この除外規定を極めて広義に解釈することを容易にし、証拠書類の必要な開示を妨げるものとなります。米国は、貴審議会がこの除外規定を狭義なものとするための何らかの措置を検討されることを期待します。

更に、米国は、同法第225条により、第三者が文書提出命令に従わない場合の過料の上限が200,000円と低く抑えられている点に懸念を抱きます。この過料の上限は命令遵守を確保するためには低すぎるものと思われます。米国は、司法過程の完全性を確保する観点から、訴訟過程で発せられる裁判所命令の遵守を担保するための裁判所の権限について、貴審議会が有益な検討を行うものと確信します。

c. 施設調査、その他 ―― 1996年改正民事訴訟法においてうまく整備されていないと思われる一つの重要な分野は、例えば、知的所有権を侵害している可能性のある生産手段を使用していると申し立てられている相手方の施設を調査するために挙証当事者に与えられる能力です。米国は、貴審議会における検討対象の一つとしてこの分野を推奨します。

d. 政府所有の文書 ―― 政府が所有する証拠書類に対する当事者によるアクセスは、訴訟においてしばしば基本的に重要なものとなります。しかし、1996年改正民事訴訟法第220条は、そのような書類を提出義務から除外しています。政府所有の文書の提出に関しては、改正法の公布から二年以内に改めて検討されるものと思われていましたが、米国は、法的変更は未だ成されていないと理解しています。米国は、政府あるいは公務員が提出しなければならない書類の範囲を最大限にする観点から、貴審議会がこの課題を勧告の中で取り上げることを強く要望します。

3. 営業秘密保護の拡大

日本は、民事訴訟法第92条に当事者の営業秘密を含む訴訟記録の閲覧を制限する条項を加えたことにより、この分野に重要な第一歩を印しました。しかし、この追加条項は、訴訟過程における営業秘密の開示という同様に重要な問題については触れていません。米国は、営業秘密保護法制の基本となるこの問題については、これまで長期にわたり懸念を表明してきました。米国は、貴審議会がこの問題を検討し、より包括的な解決のための提言をされることを強く勧奨します。

 

V.仲裁

仲裁及びその他の裁判外紛争処理制度は、民間当事者間の商業的紛争の解決手段として効果的かつ効率的です。更に、そのような制度は、国際貿易及び投資の拡大に貢献し、政府間においての解決が必要となる紛争を減らします。しかし、日本の「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」は、日本における効果的な裁判外紛争処理メカニズムに対する需要に対応していません。同法は1890年(明治23年)の成立以来改正されておらず、従って、極めて古色蒼然としたものとなっています。同法は、また、国内紛争処理のために策定されたものであるため、国際仲裁において典型的に取り上げられる課題、及び国際連合国際商事取引法委員会(UNCITRAL)モデル法などの国際仲裁体制において通常提示せれている課題について規定していません。米国は、貴審議会が、日本における仲裁手続きが近代における国際的ビジネス・ニーズに対応できることを確保するため、同法の抜本的改正を勧告することを強く要請します。

 

VI.法的救済制度

1.裁判官に対する強力かつ効果的な命令権限の付与

訴訟手続きの迅速性、効率性また司法インフラの完全性とは無関係に、裁判所が完全かつ効果的な救済措置を施すための命令を発し、その命令に対する完全な遵守を担保するための権限を保持していることが明らかでない限り、司法制度が国際ビジネス社会のニーズに対応できるものであるという信頼感は生まれてきません。

米国においては、裁判所は、問題のある行為及びその影響双方を救済するために当事者に必要な行動をとることを命じたり、更には「断定的義務」を課すための広範にわたる権限が与えられています。米国の裁判所が適切であると思われる場合に当事者に要求できる「断定的義務」の例としては、ある契約に関して具体的な行為の遂行を求める、ある情報あるいはノウハウを相手方に対して提示することを求める、ある資産の分割を求める、などが挙げられます。このような広範にわたる「公正」な権限は、法的問題を解決するにあたって裁判所は信頼でき、かつ、効果的な場であることを、企業においても一般市民においても、得心してもらう上での基本となるものです。

対照的に日本においては、裁判所による強制命令の権限が個別の法律によって明示的に認められていない限り、不法行為の申し立て等の多くの訴訟において裁判所による強制的救済は一般的ではありません。その上、強制的救済措置が執られた場合においても、特に当事者に対して断定的義務を課す際、強制命令の効力が及ぶ範囲は必要としている目的を達成するためには狭隘に過ぎると思われます。米国は、貴審議会が、強制的救済措置が執り得る訴訟の範囲を拡大し、また、不法行為による影響を救済する上で真に効果的な強制命令を取り決めるための裁判所の権限を強化する方策について、真剣に検討されることを強く要請します。

 

VII.司法制度の透明性

国際ビジネス・コミュニティーが、自らがその下で活動する司法制度を理解し、また、裁判所を通じた紛争処理が予見可能であり、確実であり、公正であると確信するためには、司法過程の透明性が基本的に重要となります。しかし、日本の司法制度は、透明性についても、情報に対するアクセスについても改善される必要があります。

関係者のみならず一般国民が、裁判所に対する提訴及び裁判所の判決に関する情報に、より完全かつより簡便にアクセスすることを可能にするためには、そのような情報の普及を実質的に拡大する必要があります。例えば、裁判所の判決に対するアクセスが完全かつ容易に行えなければ、判例に対する信頼は損なわれることになります。裁判所判例に対する一般的なアクセスもまた同様の訴訟に対しより迅速かつより満足な解決をもたらすことに貢献する可能性があります。例えば、日本の製造物責任法に基づきある行為を求めた判決が広く、容易に入手できれば、具体的損害や企業の責任が明らかになり、同様の事件の解決を促す可能性があります。従って米国は、貴審議会が、営業秘密やその他の特に高度あるいは私的な要素を保護しつつ、司法過程の透明性を実質的に改善するための方策を提案することを勧奨します。

加えて、一般市民が弁護士に関する情報にいつでもアクセスすることが出来ることが基本的に重要です。現在は、弁護士に関する情報は広く入手可能なものとはなっておらず、依頼人が先ず弁護士を「値踏みして回り」、その後に彼らのニーズに最も適した弁護士を選択することを難しくしています。米国は、この分野に関する貴審議会の勧告を歓迎します。

 

VIII.行政活動の司法による検査

ビジネス・コミュニティーが政府及び準政府機関による行政活動に対し司法による検査を求めることが出来ることは、政府規則に則った制度における極めて重要な特徴です。そのような検査は包括的、効果的であり、時宜を得たものである必要があります。米国は、貴審議会が、行政活動に対して検査を求める司法の権限を増大し、また、そのような検査の対象となる行政活動の範囲を拡大することにより、司法による行政機関の監視を強化するための勧告を発せられることを強く要望します。例えば、1999年4月1日に導入されたパブリック・コメント手続きのように、行政手続きの透明性及び説明責任を拡大するために、行政機関が行政措置を採用した場合、行政機関によるそのような措置の実施は司法検査の対象とされる必要があります。

 

IX.国際民事訴訟手続との一体化

グローバライゼイションと広範にわたる国際商取引きの現代においては、企業活動の広がりを反映して、紛争処理手続きも多くの別々の裁判地において執られます。訴訟が世界のどこで起ころうとも、民事訴訟メカニズムが国際ビジネス・コミュニティーの紛争解決ニーズに応えるために効果的であることを確保するために、各国が努力することが重要です。米国は、貴審議会がこの分野における日本の更なる前進の必要性を検討されることを期待します。

1. 令状の送達

基本的に重要な一つの点は、いわゆる令状送達に関するハーグ条約第10a条 (Article 10a of the Hague Convention for the Service of Process) に従い、郵便による令状送達は日本において法的効力があり、郵便により送達された判決は日本において執行可能であると、日本が考慮することを明確にすることです。同第10条は、「届け先国が反対しない限りにおいて、現行条約は 「(a)外国にいる当事者に、直接、郵便によって司法書類を届ける自由を妨げるものではない――」旨を定めています。1989年4月17−20日に行われた民間国際法に関するハーグ会議特別委員会 (Hague Conference on Private International Law Special Commission)の会合において、日本代表団は、「郵便による送達に対して日本は反対の宣言はしないが、このことはそのような送達が日本において有効なものとして考慮されることを必ずしも意味するものではない(注1)」旨の声明を発表しています。日本政府によるこの声明は、日本が同10a条に反対しなかったことは、郵便の使用を送達の有効な方法として認めることを意図したものか否かについて混乱を引き起こしています。更に、米国の裁判所が発した判決の執行を求める当事者が、その判決が郵送によって送達された場合、日本においては問題に直面する可能性があるという不確実性があります。貴審議会がこの課題を再検討され、郵便による送達は有効な令状送達であり、そのような方法で送達された外国の判決は民事訴訟法第118条に規定される関連要件を満たすものである旨の勧告を発せられることは極めて有益です。

(注1) 特別委員会における日本政府の声明は以下のとおりです。

「民事あるいは商業問題における司法及び司法外書類の海外への送達に関するハーグ条約第10a条 (Article 10a of the Hague Convention on the Service Abroad of Judicial and Extrajudicial Documents in Civil or Commercial Matters) に関する日本の見解」

日本は、海外の当事者に、直接、郵便により司法書類を送ることに対して反対する旨の宣言は行わない。この関連において、日本は(特別委員会にたいする日本代表の声明の中で)、在日本の当事者に対して司法書類を送る際の郵便の使用について反対しないことは、そのような方法で送られたものは日本において有効な送達であると考慮されることを必ずしも意味しないことを明らかにした:それは、単に、日本はそのような送達が日本の主権を侵犯するものではないと考えることを意味するものである。

2. 証拠取得

外国における訴訟に使用する目的で日本において証拠を取得するための手続きは、極めて煩雑です。このことは、日本がいわゆる証拠に関するハーグ条約 (Hague Convention on the Taking of Evidence Abroad in Civil or Commercial Matters) に参加していないことにも一部起因するものです。米国は、外国における訴訟に使用する目的で日本において証拠を取得することを容易にするための手続きについて、貴審議会が検討し、また日本が同条約に参加することを勧告されることを歓迎します。

 

X.終わりに

日本の司法制度改革に関連する課題は、国際ビジネス・コミュニティーが日本市場において事業を行い、また日本市場に対してその資源や技術を投入しようとするその能力、更にはその意志にさえ重要な関わり合いをもつものです。日本がその司法制度の有効性と企業活動との間の関係をどのように取り扱うかは、究極的には、規制改革、経済の再活性化、そして国際金融センターとしての発展に向けた日本の努力が報われるか否かに極めて大きな影響を与えます。

貴審議会が検討されている課題及び解決策の範囲は極めて広く、その影響も広範囲に及びます。米国は、貴審議会が、一方において検討中のある課題は他の課題に比べより容易に、迅速に解決できるものであり、またある課題は他の課題に比べより緊急性を要するものであることを認識しつつ、他方においては包括的かつ将来指向的な考え方に基づき改革や解決に向けた方策を勧告されることを勧奨します。

日本における国際法務サービスの不足が結果的に日本における高度な国際取引きの障害となっていることを考えるとき、米国は、外国法事務弁護士と日本弁護士との間のパートナーシップ及び雇用の禁止の解除、また法律専門職間の提携の自由の保証は緊急に検討される必要のある課題であると強く信じます。米国は長年にわたりこれらの課題を提起し、討議して参りましたが、今がまさに時宜を得た解決の時であると確信します。従って米国は、貴審議会が上記規制の排除を優先事項として勧告されることを強く要請します。

米国は、貴審議会に対しこれらの意見を提出する機会が与えられたことを感謝いたします。