
「日米関係-変化する世界での最重要のきずな」
2008年3月27日、ニューヨーク
本日はお招きいただきありがとうございます。ジャパンソサエティーは先ごろ、創立100周年を迎えました。過去100年にわたるジャパンソサエティーの多大な貢献のおかげで、日米関係は世界で最も強力であるとともに、最も重要な2国間関係のひとつとなることができました。
皆様よくご存知のように、日米同盟はアジアの経済的安定と繁栄の基盤です。アジア太平洋地域の経済的成功は、米国と日本が推進する開かれた貿易体制に負うところが大きくなっています。確かに、過去60年の間には、日米関係が緊張した時代もありました。しかし、相互利益と共通の価値観の強化を通じて、この関係は成長、繁栄、そして成熟してきました。
両国の経済関係はことのほか強固で良好ですが、いろいろな点でその可能性を最大限に発揮できていないのも明らかです。例えば、両国の経済規模を考えると、われわれは2国間の貿易と投資による経済統合の利益を最大限に得ているとはいえません。同様に、世界の至る所に多くの相互利益が存在するにもかかわらず、世界貿易、エネルギーと環境、投資の自由化といった極めて重要な問題で共通の課題や機会に取り組むために、日米同盟の強みを十分に生かしてきたとはいえません。
こうした状況の中、本日私が申し上げたいことは簡単です。それは、新興経済諸国の急速な成長、保護主義の台頭、そして世界金融市場の混乱と不安定といった要素を特徴とする世界経済の劇的な変化の時代にあって、国際舞台における日米の協力が今まで以上に重要となっている、ということです。これらの共通する課題や機会に対処するために、日本と米国は協力して重点課題に取り組まねばなりません。本日私は、日本と米国に共通の課題のうち重要な項目を何点か示したいと思います。
日米関係の展望
1世代さかのぼって考えるだけで、日本と米国が直面する問題がいかに変化したかが分かります。1980年代初頭には、米国と日本の経済がアジア太平洋地域で圧倒的に優位に立ち、この地域の国内総生産(GDP)全体の84%を占めていました。当時、経済問題といえば貿易問題で、鉄鋼、自動車、半導体が日米経済協議での中心的な議題でした。「アジアの虎」と呼ばれた韓国、台湾、香港、そしてシンガポールが急速に成長していましたが、まだ比較的小さい存在でした。中国は市場経済に向かい始めたところでした。
今日では、アジアの新興市場、特に中国は、アジア太平洋地域、および世界においてはるかに大きな存在となりました。アジア太平洋地域のGDPにおける米国と日本のシェアは75%に低下しました。はっきりさせておかなければならないことは、アジアの新興経済諸国の急速な成長は、米国と日本が促進してきた開かれた経済システムの正しさを証明するものであるという点です。アジアの新興経済諸国の成長は、われわれの繁栄を促しました。しかし同時に、われわれを取り巻く世界と、われわれが直面する多くの課題にも変化をもたらしたのです。
日米の経済関係もこの間に変化しました。25年前、日本は米国にとって経済分野における最強の挑戦者であり、米国の労働者にとってグローバル化の脅威を代表する国でもありました。皮肉なことに、日本の挑戦に対する米国の懸念が最も高まったとき、株式および不動産市場のバブル崩壊により、日本は低成長、金融危機、デフレの時代に突入しました。日本人は今、この時期を「失われた10年」と呼んでいます。米国の懸念は、日本経済の強さから、日本経済の弱体化と、これがアジアの金融危機後のグローバル経済に与える影響に移りました。そして米国は、市場開放要求に加えて、マクロ経済政策についての助言もしました。
ブッシュ政権は日本をアジアにおける必要不可欠な同盟国と認識して、2国間関係のすべての側面において、穏やかで、要求を控えた、相手をより尊重する対話路線を取ってきました。米国は、金融部門の問題とデフレを解決することが、日本経済活性化の鍵であると理解していました。日本が国際舞台で自信を持って主導的な役割を果たすつもりなら、活力のある経済の復活が不可欠でした。
経済改革と金融改革によって日本の金融部門が健全さを取り戻し、日本は今、戦後最長の景気回復期にあります。しかし、デフレは驚くほど根強くてなかなか脱却できず、国内需要、特に個人消費は軟調です。何年も構造改革に取り組んできたにもかかわらず、日本はいまだに外需に大きく依存しており、成長を刺激する国内の活気が欠けています。ですから日本は、競争を促進し長期的成長をもたらす包括的改革を継続していくべきです。明るい兆しとしては、政府による金融部門の改革計画、そして先ごろ設立された、今後25年間の日本経済の発展のあり方を検討する有識者会議などが挙げられます。しかし、日本の友人の多くも認めてくれると思うのですが、議論するだけでなく、もっと多くの行動をより迅速に取らなければならない、といって差し支えないでしょう。
時として日米が共に2国間関係を重視する余り、国際的に重要な課題に関し強力な共同戦線を張ることができないこともありました。しかし、国際政策のさまざまな分野において成功するためには、強固な日米のパートナーシップが極めて重要であり必要なのです。ちょうど今の時期に、両国の協力が特に重要な分野がいくつかあります
共通の課題と機会
開かれた貿易と投資を維持していくことは、恐らく日米両国が共有する最も重要な地球規模の課題です。貿易の自由化と、資本の移動と投資に対し市場をさらに開放していくことは、両国の成長と繁栄にとって必須の要件となっていますが、これは今、ますます大きな課題に直面しています。ドーハ・ラウンドにおける貿易自由化交渉は、農業、工業製品、サービス分野で新たな貿易を創出する重要な機会となっています。ドーハ・ラウンドを成功裏に終わらせるために、日本が米国と共に主導的役割を果たすことが重要です。さらに、アジア太平洋自由貿易地域の創設を通じて、この地域で意欲的な貿易の自由化を実現するためにも、日本の指導力が重要なのです。
開かれた投資
開かれた投資は、開かれた貿易と同じくらい重要です。米国は、自由な資本の移動から大きな恩恵を受けてきました。対米外国直接投資の累計は今やGDPの28%を超えています。対米外国投資は、高賃金の仕事を創出すること、新しい技術を輸入すること、そして技術革新、生産性の向上、低価格をもたらし、消費者により多様な選択肢を提供する健全な競争を実現することによって、米国経済の繁栄の原動力となっています。米国の民間部門で働く労働者の9.2%に当たる1000万人の米国人が、米国内で事業を営む外資系企業に直接、あるいは間接的に雇用されています。
米国同様、日本も対日証券投資および日本企業の対外投資能力から恩恵を受けてきました。しかし、これとは対照的に、過去10年間の対日外国直接投資の平均は対GDP比で0.1%にとどまっており、日本の財務省の推計によると、対日外国直接投資残高は対GDP比3%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最低水準にあります。福田政権は、2010年までに対日外国直接投資を倍増する計画を打ち出しました。これが実現すれば、生産性が高まり、内需拡大につながります。
開かれた投資制度を維持する上で最も差し迫った課題が、国際投資家としての政府系投資ファンドの急成長とその重要性の高まりから生じています。政府系投資ファンドは、投資資金を増やし、長期的で忍耐強い投資家でいることによって、多くの恩恵をもたらします。公的機関としての政府系投資ファンドは、金融市場安定への関心と責任の両方を持つべきです。
同時に、政府系投資ファンドによる投資が拡大することによって、投資保護主義の新たな風潮を生み出す可能性があります。これは世界経済にとって非常に有害です。政府系投資ファンドの目的についての情報と理解が不足していることも、保護主義的な感情を生む一因になります。また、ファンド側の透明性が乏しいことと、情報伝達に一貫性がないこともその要因になりえます。投資関係においては、双方がお互いの情報に通じ、理解を深める必要があります。
開かれた投資制度を維持し、世界が政府系投資ファンドによる投資から恩恵を受け続けるために、われわれは、多国間のベストプラクティス(最優良慣行)の枠組みの策定を提案しました。国際通貨基金(IMF)は、既存の外貨準備高管理のベストプラクティスを基にこれを拡充して、政府系投資ファンドのベストプラクティスを策定すべきです。これは、新しいファンドにとって、ファンドの構成を決定し、潜在的な制度上のリスクを減らし、責任ある、建設的な市場参加者であることを示すにはどうすればいいかを示す手引きとなります。
われわれはOECDに対しても、外国の政府系投資ファンドからの投資を受け入れる国のために、ベストプラクティスを示すことを提案しました。こうしたベストプラクティスは、保護主義の回避に重点を置くべきであり、OECD およびその加盟国が受け入れている、外国投資を取り扱う際の確立した原則に沿ったものであるべきです。日本は、政府系投資ファンド、そして政府系投資ファンドからの投資受け入れ国にとってのベストプラクティスの作成・導入において、これまで大切な同盟国でした。そして、今後も大切な同盟国であり続けてもらえると思います。
為替レート
保護主義者が開かれた貿易やグローバル化に対し激しく反発する明白な理由として、貿易黒字国、特に中国の柔軟性のない為替政策が挙げられます。米国と日本は、変動為替相場の維持の重要性を認識しています。米国はG7の場で日本と意見の一致を見ています。2008年2月の会合では、G7は自国通貨の柔軟性を高める中国の決定を歓迎しましたが、それとともに中国の実効為替レートの切り上げを促しました。
人民元の為替レート政策は多国間の問題であり、日本およびG7のほかの国々は、世界経済にとって人民元の切り上げがいかに重要であるかを強調しました。額賀財務大臣も、中国に対し公式に人民元切り上げの加速を求めました。日本は中国と、知的財産権の保護、食品や製品の安全性、通貨の柔軟性等の緊急の経済問題を扱う閣僚級の「ハイレベル経済対話」を設立しました。
通貨問題で日本が中国に関与することは特に有益です。中国の学識者や政府関係者は、中国が通貨問題でこれ以上迅速な行動は取らないことを、たびたび示唆しています。それは、1980年代半ばの円高後にデフレと経済成長の低迷を経験した日本の二の舞を演じたくないからです。それ故、(中国と)十分かつ率直な話し合いをしようとする日本の積極的な姿勢は、中国の通貨改革の進展を促す一助となってきました。さらに、IMFによる新たな為替レート監視の枠組みの積極的な実施を日本が全面的に支援することにより、中国が人民元の変動相場制移行に向かって前進するよう促すことができます。
エネルギーと環境
持続可能な世界の経済成長達成のためのもうひとつの要件は、高コストのエネルギー需要とそれに付随する環境問題に取り組むことです。気候変動は、世界規模での解決を必要とする世界規模の課題です。米国と日本の戦略はこの現実に即したものです。この分野で両国は、最先端のクリーン技術を開発・促進する責任と能力を共有しています。両国には、昨年9月にブッシュ大統領が始めた主要経済国会合において、また昨年12月に合意したバリ・ロードマップを成功裏に完了するための取り組みにおいて、指導的役割を果たすという共通の責任もあります。今年のG8では、この重要な課題を前進させるため、日本が指導力を発揮することが不可欠です。
さらに、米国と日本は英国と共に、気候変動の問題に取り組む解決策の一部として、開発途上国でのクリーン技術の展開を加速するための基金を創設することに合意しました。日・米・英の3カ国は、世界銀行と協力し、主要新興国で温室効果ガスを削減するクリーン技術を展開する資金を提供するために、数十億ドル規模の多国間信託基金の創設に取り組んでいます。
この基金は、市場原理を利用してクリーン技術の採用を促す国家政策を支援し、クリーン技術とダーティー技術のコストの差を埋めるものです。ブッシュ大統領は、この「クリーン技術基金」に3年間で20億ドルを拠出するための承認を(連邦議会に)求めることになります。日本は1月に、同基金への支援を発表しました。これもG8での重要議題のひとつです。
結論
ご来場の皆様、お分かりいただけたと思いますが、日米の2国間関係は堅固で重要なものです。そして、まだ認識されてない大きな可能性があります。世界規模の難問に取り組むためには、世界の舞台で、活気ある、自信に満ちた日本の存在が不可欠です。両国の指導的な経済的地位を考えると、米国と日本は、世界の貿易や金融制度を維持し強化するという、ほかに類のない責任を共有しています。この目標を実現するためには、両国が熱心に、また精力的に、包括的な協力を行うことが不可欠です。
ご静聴ありがとうございました。質問がありましたらどうぞ。


駐日米国大使