
2006年4月17日
1.合衆国原子力軍艦の安全性に関する合衆国政府のコミットメント
原子力により推進される合衆国の軍艦(以下「原子力軍艦」)は、50年以上にわたり、一度たりとも、原子炉事故や、人の健康を害し、又は、海洋生物に悪影響を及ぼすような放射能の放出を経験することなく、安全に運航してきた。海軍の原子炉は、1億3400万海里以上にわたり原子力による安全航行を行うという傑出した記録を有するとともに、延べ原子炉稼働年数にして5700年以上にわたり安全に運航してきた。
合衆国は、現時点で原子力軍艦を83隻保有しており、その内訳は潜水艦72隻、空母10隻及び調査船1隻である。これらの原子力軍艦は、合衆国海軍の主要な戦闘艦の約40%を構成し、合衆国国内の約70カ所及び日本国内の3カ所を含め、50カ国以上における150カ所以上の港に寄港している。
日本国の港に寄港する原子力軍艦の安全性については、合衆国政府は、1964年のエード・メモワール、同年の外国の港における原子力軍艦の運航に関する合衆国政府の声明、1967年のエード・メモワール、及び1968年の会談覚書におけるものを含め、確固たるコミットメントをこれまで行ってきた。1964年以降、合衆国原子力軍艦は1200回以上日本国の港(横須賀、佐世保及びホワイトビーチ)に寄港している。これらの港において日米両政府が各々実施してきたモニタリングの結果は、合衆国原子力軍艦の運航が周辺の環境中の一般的なバックグラウンド放射能の増加をまったく引き起こしていないことを示している。
合衆国政府は、これらのコミットメントのありとあらゆる面が引き続き堅持されることを表明する。特に、合衆国政府は、合衆国の港における活動に関連してとられる安全性に係るすべての予防措置及び手続が日本国の港を含む外国の港においても厳格に実施されることを確認する。また、合衆国政府は、そのコミットメントは、合衆国原子力軍艦の安全性を確保し、また、更新され、強化され続けてきている具体的な措置によって裏付けられていることをここに記す。
2. 海軍の原子炉の設計
すべての合衆国原子力軍艦は、加圧水型原子炉(PWR)を使用している。加圧水型原子炉は、安全性について確立された実績を有するとともに、その稼働上の特性及びリスクは理解されており、世界の約60%の商業用原子力発電所において用いられている基本的な設計である。
海軍の原子炉が支える任務は、商業炉の任務と異なる。すべての原子力軍艦は、戦時の攻撃に耐え、乗組員を危険から防護しながら戦闘を継続できるように設計されている。これらの軍艦は、高度のダメージ・コントロール能力、重層性、及び主要なシステムの予備のシステムを有している。さらに、軍艦としての任務を支えるため、海軍の原子炉は、推進のニーズに応じた出力レベルの迅速な切り替えを可能にし、推進の継続性を確保し、また、長い稼働年数を保持できるよう(現在の海軍の原子炉の炉心は、空母については就役期間中の燃料交換が1回で済むよう、また、潜水艦については燃料交換を一度も行わなくて済むように設計されている。)、設計され、稼働されている。これらが、原子力軍艦の原子炉と商業炉の任務の大きな違いである。また、原子炉のオペレーター及び乗組員が原子炉の至近で生活しなくてはならないため、原子炉には重層的なシステムと万全の遮蔽が存在することが必要であり、また、信頼性があり安全であることが求められる。これらの理由から、海軍の原子炉の設計は商業炉の設計とは異なっており、その結果、海軍の艦船は、厳しい戦闘状況下において安全に運航するため、また、平時の運用においてはより一層安全に運航するため、一段と高い能力を有することになる。
原子炉に関係する何らかの問題が生じるという極めて想定し難い事態においても、少なくとも四重の防護壁が放射能を艦船の中にとどめる役割を果たす。これらの四重の防護壁とは、燃料自体、燃料を収納する原子炉圧力容器を含む全体が完全に溶接された一次系、原子炉格納容器、及び船体である。商業炉にも同様の防護壁が存在するが、任務に根本的な相違があるため、原子力軍艦の防護壁は、民生用の原子炉のものと比べ、はるかに頑丈で耐性が強く、また、はるかに慎重に設計されている。
合衆国海軍の原子炉の燃料は、固体金属である。燃料は、戦闘の衝撃に耐えられるように設計されており、燃料中で生成される核分裂生成物を放出することなく、重力の50倍以上の戦闘衝撃負荷に耐えることができる。これは、合衆国の商業用原子力発電所の設計に際して用いられる地震衝撃負荷の10倍以上である。燃料は極めて頑丈に設計されているので、燃料中の核分裂生成物は、一次冷却水の中には決して放出されない。このことは、商業炉との顕著な相違点の一つである。商業炉では、少量の核分裂生成物が燃料から一次冷却水中に放出されるのが通常である。
全体が完全に溶接された一次系は、放射能の放出を防ぐ第二の堅固な金属の防護壁としての役割を果たす。一次系は、炉心を収納する極めて頑丈で厚い金属構造である原子炉圧力容器と一次冷却水の循環パイプによって構成される。これらは、極めて厳しい基準に従って堅くかつしっかりと溶接されており、加圧された高熱の水を一次系の中に閉じこめる単一の構造体を構成している。一次冷却水を循環させるポンプは、密閉された水没型のモーター・ポンプである。これは、ポンプが、全体が完全に溶接された一次系の金属の防護壁の内側に完全に収まっていることを意味する。このポンプは、外側から電磁力によって操作されており、ポンプに動力を供給するために一次系の外壁に穴を開ける必要はない。いかなる回転体及びそれに付属する漏水防止部品も、金属の防護壁を貫通していない。一次系からはいかなる計測可能な漏水も発生しないことが確保されるように設計されているが、そもそも一次冷却水中には、極めて微量の放射能しか存在しないことは留意されるべきである。先述のとおり、いかなる核分裂生成物も燃料から一次冷却水中には放出されない。一次冷却水中に存在する放射能の主な線源は、原子炉冷却水により運搬され、原子炉の燃料部分を通過する際に中性子によって放射化される極めて微量の腐食物である。このような放射化された腐食物からの放射能の濃度(グラム当たりのベクレルの値)は、一般的な園芸用肥料から検出される自然放射能の濃度とほぼ同じである。合衆国海軍は、いかなる予期せぬ事態が発生しても、これが検知され、迅速な対応がなされることを確保すべく、原子炉冷却水中の放射能のレベルを毎日モニターしている。
第三の防護壁は、原子炉格納容器である。これは、特別に設計され建造された高強度の構造物であり、その内部に全体が完全に溶接された一次系及び原子炉が位置する。仮に一次系において液体又は圧力が漏れるようなことがあったとしても、格納容器は、それらが容器の外に放出されることを阻止する。
第四の防護壁は、船体である。船体は、戦闘における大きな被害にも耐えることができるよう設計されている極めて頑丈な構造となっている。原子炉格納容器は、艦船の中心部の最も強固に防護された部分に位置している。
合衆国海軍原子力推進機関プログラムは、二省庁にまたがった組織であり、エネルギー長官及び海軍長官に直接のアクセスを有する。同プログラムは、合衆国海軍の原子力推進機関に関するすべての面を所掌しており、これには、海軍の原子力推進装置の研究、設計、建造、試験、稼働、メンテナンス及び最終的な廃棄処分が含まれる。同プログラムの承認なくしては、これらの活動は一切行い得ない。
さらに、合衆国原子力規制委員会及び原子炉安全諮問委員会は、海軍の原子炉装置の個々の設計について、独立して審査を行う。これらの委員会は、多くの分野において、軍事的な所要のため、商業炉に求められる基準よりも厳しい基準を満たす性能及び実行が実現されていると結論付けている。厳しい審査の結果、合衆国原子力規制委員会及び原子炉安全諮問委員会は、合衆国原子力軍艦は公衆の健康と安全に不当な危険を及ぼすことなく運航可能であると結論付けている。
3.海軍の原子炉の稼働
海軍の原子炉と商業炉は異なった目的のために使われるため、海軍の原子炉の稼働も、商業炉の稼働とは異なる。第一に、海軍の原子炉は、典型的な商業炉よりも小さく、出力レベルも低い。最大級の海軍の原子炉の出力は、合衆国の大規模な商業炉の出力の5分の1にも満たない。また、海軍の原子炉は、通常、最大出力では稼働しない。就役期間を通じた原子力空母の原子炉の平均的な出力レベルは、最大出力の15%以下である。これに対して、商業炉は、通常、最大出力に近いレベルで稼働している。
第二に、海軍の原子炉の出力レベルは、一義的には推進に係るニーズによって定められるものであり、艦船のその他の業務に係るニーズによっては定められない。その他の業務に係るニーズも、原子炉によって動力が供給されているが、推進に必要な出力のわずか一部分を必要とするにとどまる。したがって、港湾内では推進のために極めて低いレベルの出力しか必要でない以上、通常、原子炉は、停泊後速やかに停止され、出航の直前になって初めて再稼働される。港湾内では業務に必要となる電力は、陸上から供給される。陸上から十分な電力を得ることができる日本国の港に停泊する原子力軍艦については、これまでも、また、今後とも、これが当てはまる。
これら二つの事実だけからでも、港に停泊中の合衆国原子力軍艦の原子炉から放出され得る放射能の量は、典型的な商業炉の場合の約1%に満たないということとなる。原子炉の稼働中に生成され、人体への悪影響が懸念される核分裂生成物の大部分は、原子炉が停止された後に速やかに崩壊し消滅していく。
4.原子力軍艦関連の合衆国職員が受ける放射線量
放射能の放出を阻止する四重の防護壁及び万全の遮蔽により、合衆国海軍の原子炉は非常に効果的に遮断され、放射能は厳しく管理されているため、典型的な原子力軍艦の乗組員は、同じ期間中合衆国国内にいる人がバックグラウンド放射線から浴びる放射線量よりも、著しく少ない量しか浴びない。これは、艦船に設けられた万全の遮蔽とともに、原子力軍艦の展開中は、地表自体、特にラドン、から発生する放射線が存在しないことによるものである。
海軍原子力推進機関プログラムにおいて調査されてきた一人当たりの平均被曝量は、過去24年間減少傾向にある。艦隊の要員の場合、1980年以降過去25年の年間の平均年間被曝量は約0.044レム(0.44ミリシーベルト)であるが、2004年の一人当たりの平均被曝量は0.038レム(0.38ミリシーべルト)である。
1980年以降の平均年間被曝量であるこの0.044レム(0.44ミリシーベルト)という数値を種々の数値と比較すると以下のとおりである。
・放射線業務従事者に関する合衆国の連邦線量限度である5レム(50ミリシーベルト)の1%にも満たない
・商業用原子力発電所従業員の平均年間被曝量である0.109レム(1.09ミリシーベルト)の約3分の1
・合衆国の商業用旅客機の乗務員が宇宙放射線から受ける平均年間被曝量である0.17レム(1.7ミリシーベルト)の約4分の1
・合衆国居住者が自然のバックグラウンド放射線から受ける平均年間被曝量である約0.3レム(3.0ミリシーベルト)の15%にも満たない
・コロラド州デンバーにおける自然のバックグラウンド放射線による年間被曝量と、ワシントンDCにおける自然のバックグラウンド放射線による年間被曝量の差である0.07レム(0.7ミリシーベルト)よりも低い
5.廃棄物の処理とメンテナンス
商業炉の場合と同様に、海軍の原子炉の稼働には、低レベル放射能を含む液体の発生が伴う。商業炉の場合、低レベル放射能を含む液体は、環境又は公衆の健康に意味のある影響がないことを確保するために設定された限界値の範囲内において、発電所の活動の一環として日常的に排出されている。合衆国原子力軍艦の原子炉に関しては、放出される放射能の量を最小のものとするために、日常的な排出を厳しく管理する多大な努力が行われてきている。
合衆国海軍は、原子力軍艦の液体廃棄物の排出を、日本国の基準、及び、国際放射線防護委員会から出されている基準を含む確立された国際基準に完全に適合するよう厳格に管理している。とりわけ、合衆国の政策は、日本国の港も含め、沖合12海里以内においては、一次冷却水を含む液体放射性物質を排出することを禁じている。合衆国及び日本国が40年間にわたり行ってきた環境モニタリングは、合衆国原子力軍艦の運航が人体、海洋生物又は環境の質に悪影響を及ぼしてきていないことを確認している。固形廃棄物は、適切に包装された上で、合衆国の沿岸の施設又は専用の施設船に移送され、承認された手続に従って合衆国国内で処理される。合衆国原子力軍艦は、過去30年以上の間、使用済汚染除去剤(浄化のためのイオン交換樹脂)を海中に排出していない。
1964年のエード・メモワールで表明された燃料交換及び修理に関する合衆国のコミットメントは、引き続き完全に堅持される。燃料交換及び原子炉の修理は、外国では行われない。燃料交換は、適切な特別の装置を用いて、かつ、合衆国海軍原子力推進機関プログラムが認めた施設(合衆国国内にのみ所在する。)においてのみ行い得る。
6.環境への影響
頑丈かつ重層的な設計、比較的低出力の稼働の履歴(特に入港中(通常原子炉が停止される))、及び放射性廃棄物の極めて厳重な管理は、すべて、原子炉事故、又は、人の健康、海洋生物若しくは環境の質に悪影響を及ぼすような放射能の放出が、合衆国海軍原子力推進機関プログラムのこれまでの歴史を通じて一件も発生していないという事実に寄与している。
1971年以降、合衆国海軍のすべての原子力軍艦及びその補助施設から沖合12海里以内で一年間に放出されたガンマ放射線を出す長寿命の放射能の総量は、いずれの年についても、0.002キューリー(0.074ギガベクレル)以下である。この数値には、合衆国の原子力軍艦が入港した合衆国及び外国双方のすべての港湾における値が含まれる。このデータが持つ意味を計る尺度として、この放射能の量は、原子力潜水艦1隻が占める体積に相当する港湾中の海水の中で自然に発生する放射能の量よりも少なく、また、原子力空母1隻の排水量に相当する港湾中の海水の中で自然に発生する放射能の量の10分の1よりも少ない。これは、合衆国原子力軍艦が、同程度の体積の海水の中に自然に存在する放射能の量よりも、はるかに少ない放射能しか放出しないことを意味する。さらに、過去34年のうちのいずれかの一年間に、いずれかの港に放出されたすべての放射能にさらされたとしても、合衆国原子力規制委員会が定めた放射線業務従事者の年間許容線量限度を超過することはない。典型的な合衆国の商業用原子力発電所一つが、原子炉の運転許可上許容されている限界値の十分な範囲内で排出を行う場合は、すべての合衆国原子力軍艦及びその補助施設から沖合12海里以内において一年間に放出されるガンマ放射線を出す長寿命の放射能の合計量の100倍以上の放射能を年間で排出することとなる。
さらに、沖合12海里以遠の外洋においても海軍の方針がいかに厳重に適用されているかを示す尺度としては、1973年以来、いずれの年をとっても、すべての合衆国原子力軍艦が一年間に放出したガンマ放射線を出す長寿命の放射能を合計した量は0.4キューリー(14.8ギガベクレル)以下である。この合計値は、典型的な合衆国の商業用原子力発電所一つが一年間に放出することが合衆国原子力規制委員会より認められている放射能の量よりも少ない。外洋において放出されたこのように低いレベルの放射能は、人の健康、海洋生物又は環境の質に何らの悪影響も与えてきていない。
いかなる国内基準も、いかなる国際基準も、原子力施設から放出される放射能のレベルをこれほど低いものにすべきとは要求していない。この政策を実施するために合衆国海軍が行ってきた厳しい取組により、合衆国原子力軍艦の運航及び修理が周辺の環境の一般的なバックグラウンド放射能のいかなる増加ももたらさないことが確保されてきている。
7.環境モニタリング
放射能を管理するために合衆国海軍がとっている諸措置が環境保護のため適切であることを追加的に保証するために、海軍はその原子力軍艦が頻繁に入港する港湾において環境モニタリングを実施している。合衆国国内では、艦船が活動拠点とし又は修理を受けている港湾において、海底堆積物、水質及び海洋生物の試料が四半期毎に採取されている。このモニタリングの結果は、毎年報告され、日本国政府にも提供されている。同様に、日本国でも、合衆国海軍は、佐世保港、横須賀港、及び沖縄の中城湾から、海底堆積物、水質及び海洋生物の試料を四半期毎に採取している。
このモニタリングの結果は、合衆国原子力軍艦の運航の結果として港湾の周辺の環境における放射能が自然のバックグラウンド放射能のレベル以上には増加したことはなく、また、原子力軍艦の運航が人の健康、海洋生物及び環境の質に認識可能な悪影響を及ぼしていないことを示している。日本の港湾から採取された環境試料についての結果は、日本国政府への報告書において毎年提供されている。
合衆国政府は、日本政府が1964年以来日本国の港湾から同様の環境試料を独自に採取してきており、環境、人の健康又は海洋生物への影響は確認できないという同様の結果に至っていると承知している。
8.緊急対応 / 深層防護
合衆国原子力軍艦に備わっている四重の防護壁により、炉心から出る放射能が周辺の環境に放出されるというような可能性は極めて低い。しかし、追加的な保証として、合衆国原子力軍艦には、問題の発生及び拡大を防ぐための多重的な安全システムが設けられている。
全体が完全に溶接された一次系は漏れを皆無とする設計基準で設計されているため、原子力軍艦の原子炉のオペレーターは、極めて微量の一次冷却水の漏れをも直ちに探知し、更なる問題につながる前に迅速に是正措置をとることができる。
さらに、合衆国原子力軍艦は、極めて速やかに原子炉を停止させるフェイルセーフの原子炉停止システムを有するとともに、他にも多重的な原子炉の安全システム及び設計上の特色を有している。これらは各々が予備のシステムを備えている。一例として、崩壊熱除去システムがあるが、これは、電力に依存することなく、原子炉の物理的構造と水自身の特性(比重差によって生じる自然対流)のみによって、炉心を冷却するものである。また、海軍の原子炉は、無限の海水を即時に使用し得るため、もし究極的に必要となれば、緊急の冷却及び遮蔽のために海水を艦内に取り入れ、艦内にとどめておくことが可能である。合衆国原子力軍艦のすべての原子炉は、頑丈な格納容器の中に設置されており、また、原子炉を冷却するために水を加える多数の方法を有している。これらの多重的な安全システムにより、多数の故障が発生するという極めて可能性の低い事態でも、海軍の原子炉はオーバーヒートせず、炉心で発生する熱により燃料が破損されないことが確保されている。したがって、炉心から一次冷却水中に核分裂生成物が放出されるためには、これらの安全システム及び予備のシステムがすべて機能しないという、実際にはあり得ないような事故の諸条件がそろう必要がある。
原子力軍艦の乗組員は、十分に訓練を受けており、船上のいかなる緊急事態にも即時に対応できる十分な能力を有する。海軍の作業手順及び緊急事態の手続は、明確に規定され、厳格に実施されている。個々の乗組員は、非常事態に対処する訓練を受けるとともに、高度の説明責任を要求されている。また、乗組員が原子炉のかくも至近で生活していること自体が、原子炉の状態の極めて些細な変化についても最も適切かつ早期にモニタリングを実施することを可能にしている。原子炉のオペレーターは、原子炉の音、匂い、感触等に極めて敏感になっている。
日本国に寄港中の合衆国原子力軍艦の原子炉に関係する問題が発生したという極めて想定し難い事態が生じた場合、合衆国海軍は、必要となる対応措置を開始し、必要であれば合衆国が有する他の緊急事態対応のための要員・機材等も導入することが可能である。合衆国政府は、このような対応を行っている間、日本国政府に対し継続して情報提供を行うが、合衆国政府は、当該原子力軍艦へ対応するに当たって、日本国政府からの支援を必要としないだろう。
原子炉の頑丈な構造、多重的な安全システム及び十分に訓練を受け高い能力を有する乗組員により、合衆国原子力軍艦の安全性は極めて高い。艦船の運航又は乗組員に影響を及ぼすような事故が発生するためには、数多くの現実に起こりえないような装置の故障及びオペレーターの過ちが艦船において同時に発生する必要がある。このような事故が起こるシナリオは極めて非現実的であるにもかかわらず、合衆国原子力軍艦及びその補助施設は、極めて想定し難い原子炉事故のシナリオについて意味のある訓練を行うべく、そのような状況のシミュレーションを行うよう求められている。
このような深層防護アプローチにより、仮に合衆国原子力軍艦の原子炉に関係する問題が生じるという極めて想定し難い事態でも、燃料からの放射能は、すべて艦内にとどまると想定される。
9.極めて想定し難い事故のシナリオにおける放射能放出の可能性
これらすべての議論から導き出される結論は、原子炉の炉心自体から漏出した放射能が艦船から周辺の環境に放出されてしまうような事故の可能性は極めて低いということである。しかし、合衆国海軍は、そのような事故のシナリオは真剣な検討に値しないとして無視するようなことは絶対にしていない。合衆国海軍は、極めて想定し難い事故が発生したというシナリオにおいて、何が艦船からの放射能放出をもたらし得るのか、その場合、環境にいかなる影響が及び得るのか、そして、そのような状況においていかなる緊急事態対応計画が必要となるかについて、徹底的な研究を行ってきた。
核分裂生成物が周辺の環境に放出されるためには、核分裂生成物が、燃料、全体が完全に溶接された一次系、原子炉格納容器及び船体という四重の防御壁のすべてを通過する必要がある。また、すべての原子炉安全システム及びそれらの予備のシステムが機能不全に陥ることが必要となる。さらに、十分に訓練され高い能力を有する乗組員が事態に対応できず、事態を制御できないということが必要となる。仮に、極めて想定し難い事故のシナリオにおいて、これらすべての異常事態が同時に発生するということが実際に起これば、核分裂生成物が合衆国原子力軍艦から周辺の環境に放出される可能性が生じる。換言すれば、このような事故は、過失及び機能不全が多重的かつ同時に発生するという極めて非現実的な状況下でしかあり得ない。それでもなお、合衆国海軍は、こうした極めて想定し難い事故のシミュレーションのシナリオにつき、実際に準備を行い、対応措置を試している。
1967年のエード・メモワールにおいて合衆国政府が表明したように、放射能の放出をもたらす最大想定事故を仮定した場合の詳細かつ慎重な安全性についての分析によっても、原子力軍艦がその停泊地点の周辺の住民に対して、不当な放射線その他の原子核による危険をもたらすものではない。このような極めて想定し難い状況においてでさえも、艦船から想定される量の放射能が放出された場合のあり得る最大の影響はあくまで局地的であり、かつ、深刻ではないものにとどまる。すなわち、その影響が極めて小さいため、屋内退避等の防護措置が少なくとも検討される範囲は極めて限定的なものとなり、軍艦の至近、及び在日米海軍基地内に十分とどまることとなる。このような説明は、公衆の防護措置のために合衆国連邦政府が定めた敷居値に基づいたものであり、同様の緊急事態に対して国際原子力機関(IAEA)が定めた既存のガイドラインと同等かより厳しいものである。
このように極めて想定し難い事故の影響が局地的かつ深刻でないものにとどまることには多くの要因が寄与している。第一に、燃料内の核分裂生成物は、大気に直接かつ直ちにさらされるわけではない。核分裂生成物は、まず四重の防護壁を通過する必要がある。核分裂生成物が四重の防護壁すべてを通過するという極めて想定し難い状況が発生したとしても、放出される可能性がある放射能の量は、一つ一つの防護壁を通過するごとに著しく減少する。このことは、事故において最終的に艦船から放出され得る放射能の量は、一次冷却水中に放出されたであろう放射能量のうちの極めてわずかな一部に限られることを意味する。
第二に、艦船から放射能が放出され得る過程は、爆発のような短時間に起こる出来事ではない。放射能が四重の防護壁を通過するには、長い時間を要する。非常に頑丈な原子炉格納容器及び船体が放射能の移動を抑えるため、放射能が爆発のような力によって短時間に放出されることはない。
第三に、放射能が四重の防護壁を通過するには長い時間を要するため、放射能が船外に到達する前に、乗組員が問題に対応し、発生し得る影響を最小限にするために十分な時間がある。また、原子炉の稼働中に生成され、人の健康への影響が懸念される核分裂生成物の大部分は、原子炉の停止後間もなく、かつ四重の防護壁を通過する前に、崩壊し消滅していく。
上述のプロセスは、原子爆弾の爆発とは完全に異なっている。陸上の商業炉や海軍の原子力推進原子炉において、この種の核爆発が起こることは物理的に不可能である。
10.緊急事態対応計画
上述のとおり、日本国における米海軍基の外の地域では、艦船から放射能が漏出するという極めて想定し難い事態が発生したとしても、いかなる防護措置もとる必要はない。したがって、合衆国政府としては、合衆国原子力軍艦についての極めて想定し難い事態に対処するためには、地震、化学物質輸送時の事故等の自然災害及び産業災害に対処するための日本国の既存の緊急事態対応計画で十分であると考える。留意すべき重要な点は、合衆国国内の原子力軍艦の母港や原子力軍艦が置かれているいかなる港においても、屋内退避、避難、又はヨウ化カリウムの配布といった公衆の防護措置のための原子力軍艦に特定した計画は、公衆の安全のために必要とされないため、存在しないということである。
合衆国原子力軍艦が移動可能であるという事実は、陸上の原子力関連施設にはない安全面での特色である。艦船から放射能が漏洩するという極めて想定し難い事態においても米海軍施設外の地域では公衆の防護措置が不要であることにかんがみれば、艦船を港から移動させなければならなくなるような事態は想定し難い。それでもなお、もし適切であると判断されれば、艦船自体の推進力、又は、必要に応じてタグボートの補助を得て、艦船を移動させることができる。問題が生じた原子力軍艦を移動するためのいかなる措置も、日本国政府との協議を経た上でとられることになる。
11.補償
合衆国原子力軍艦の原子炉に係る原子力事故から生じる訴訟行為に関し、地位協定が適用されない場合は、公船法及び海事請求法が適用され、合衆国の主権免除は放棄される。合衆国法典第42編第2211条に基づき行政上の請求及び決定に対し補償を行う権限は、無過失責任原則を用いた行政的救済を可能とすることにより、上記の2つの法律を補足する。合衆国原子力軍艦の原子炉に係る事故の場合に支払われる補償額には法定上の限度はない。


駐日米国大使